小学館ファミリーネット 小学一年生

ファミリーネットニュース

なぜ起こる?パパの産後うつ「パタニティ・ブルー」

2014年10月 3日

「イクメン」という言葉がもはや古く感じられるほど、パパの育児参加は当たり前になってきました。その一方で、パパの産後うつといわれる「パタニティ・ブルー」を経験する人も増えてきています。

パタニティ・ブルーは、出産直後からだいたい3ヵ月ごろくらいまでに起こる、パパの心身状態の変化のこと。「パタニティ(paternity)」は、父性を意味する英語です。

赤ちゃんが産まれて幸せなはずなのに、眠れない、頭痛や胃痛に悩まされる、肩こりなど倦怠感が続くといった身体症状がでたり、「本当に父になれるのだろうか」「この先、妻とうまくやっていけるのだろうか」と不安感がつのったり......。ひどい人になると、うつ状態になって何もやる気が起きない、仕事に行く気がしなくなる、といった症状で苦しめられることもあります。

この現象は、1987年にプルーエットによって初めて指摘されました。わが国では1997年、いまから20年ほど前にパタニティ・ブルーについての研究が始まり、イクメンムーブメントの高まりとともに注目度を高めています。

現在、パタニティ・ブルーの経験者は、全体の1割程度といわれています。産後女性の約3割が経験するという産後ブルーに比べると、まだまだ少ない数字ではありますが、「イクメン」が増えていく今後はさらに顕在化すると考えられています。

■「産む性」でなくとも起こる産後うつ

女性の産後うつは、出産でホルモンバランスが乱れることが主因といわれています。しかし、パパは産みの苦しみを味わうわけでもなく、ホルモンバランスが変化したりするわけでもないのに、一体なぜパタニティ・ブルーになるのでしょうか?

まずは、生活の大きな変化です。赤ちゃんが産まれることで、ママだけでなくパパも、それまで夫婦で過ごしていた大人中心の生活から、子どもに合わせた生活へと待ったなしに大転換をせまられます。その心理的ダメージは、ママだけでなくパパにもずしりとのしかかります。

次に、仕事との両立。育児中心の生活を心がけようとするパパほど、仕事との両立が難しいというジレンマに悩まされます。まだまだ男性では珍しい育児休暇を取得したり、短時間勤務やフレックス勤務に切り替えると、職場で孤立してしまうこともあります。キャリアへの不安や経済的な不安ものしかかります。

夫婦の会話が減ることも、パパの心理的負担になります。ママは赤ちゃんにかかりっきり、会話やスキンシップが減ってしまうと、パパは家庭で孤独を感じ、ストレスが増加する一因になります。

そして最後に、ママがうつ状態に陥ることで、同調してしまうケース。とかく神経過敏になりがちな産後のママに引きずられるように、パパもうつ状態になってしまうのですね。


■男性は「リセット」できない――経験者の声

先日お子さんが生まれたばかりの内田武さん(仮名)は、奥さんが退院してから2日目に、強いめまいを感じて倒れ込みました。里帰り出産などをせず、夫婦ふたりで産後を乗り越えようとした矢先のできごとでした。

内田さん「血圧を測ってみると上が166、下が123。これまで経験したことがないほど血圧が上がっていました。振り返ってみると、出産前から極度の緊張状態が続いていたので無理もないことでした。

妻は妊娠9か月のころ、実母が急逝し、非常に強いショックを受けていました。それに加えて、妊娠後期の体のしんどさで心身ともにナーバスになっていたため、強い不安感を僕に投げかけるようになっていました。

少し胎動がやむと"赤ちゃんが動いていない!"と不安になり、励まそうとした僕が"大丈夫だよ、元気に産まれてくるよ"というと、"何の根拠があって大丈夫なんていうのよっ!! 無責任!!"とお説教されてしまう...。でも、妊娠を経験できない男の僕は『大丈夫』以外の言葉なんて思いつかないんです(苦笑)。それに加えて、僕は自営業で、在宅で仕事をしていますから、朝から晩まで彼女の不安を受け止めていた感じでした」

奥さんの出産は、26時間以上もかかる壮絶なものでした。陣痛室でずっと奥さんをサポートしていた内田さんですが、内田さんの方が先に憔悴してしまったそうです。

内田さん「情けない話ですが...。明け方少しだけ仮眠させてもらいました。愛する妻は、この世のものとは思えぬ声をあげ、痛みで朦朧としているし、向かいの分娩室からはよその奥さんの絶叫も聞こえてくる...。人の叫び声って、聞くほうにとってはかなり怖いものなんですね。分娩の瞬間はとても感動的でしたが、なるほど立会い出産というのはあらゆる意味で、まさに人生観が変わる劇的な体験だなと思いました」

こうして出産前から続いた緊張状態が、奥さんの退院でピークに達したという内田さん。新生児と一緒に自宅に帰ってきた奥さんは、多くの産後女性の例にもれず神経過敏状態になり、その一喜一憂に内田さんも振り回されて右往左往。激しい口論にもなりました。

内田さん「そんな調子で、産後はかなり混乱をきわめました。これは夫婦二人で乗り越えるのは無理だ、誰か外の人間を頼らなければと、僕の母を急遽呼び寄せて家事を手伝ってもらったり、経産婦の友人たちが妻の産後サポートに来てくれたりして、平穏を保てるようになりました。

で、妻が友人たちと笑いあっているときに、ふと思ったんですよ。

産んでもいない男の僕が、産後こんなにもつらいのは、もしかして『リセット』ができないからじゃないか?って。

妻たちは『産みの苦しみって、赤ちゃんの顔を見た瞬間に忘れちゃうよね』『わかるー』と笑いあっています。でも、僕たち男は、受けた衝撃や苦しみを『産む喜び』に変えることができません。身体的な体験がないから、怖さや辛さが記憶にずーっと残ったままになる。そして、誰かに愚痴って吐き出す術もない。だから、妻のストレスを受け止めたあと、リセットできないまま溜め込んでしまうんじゃないのかな」

内田さんがいま最も楽しみにしているのは、お子さんの沐浴時間だそう。自分の腕に子どもの重みを感じながら、気持ちよさそうにリラックスした表情を見ることは「男が育児をしていて感じられる、数少ない身体的な体験かも」(内田さん)と語ります。

1003papa02.jpg肌と肌をふれあう沐浴の時間は、母乳がでないパパにとって、
わが子と濃いスキンシップがはかれる貴重な時間。
心身ともにリフレッシュできるひとときでもあります。
「妻よりうまくできると、ちょっとした優越感もあるんです(笑)」
(内田さん)


■職場ではパタニティ・ハラスメントも

2014年1月、連合(日本労働組合総連合会)が「パタニティ・ハラスメント(パタハラ)」についての調査を発表して話題になりました。

これは、男性が育児休業を取ったり、育児のため短時間勤務やフレックス勤務をしたりすることを、会社や上司が妨げる行為のことです。

調査によると「職場でパタハラをされた経験がある」「パタハラを受けた人を知っている」と答えた男性は、それぞれ全体の約1割に。パタハラを受けた人がとった対応は、「だれにも相談せず、子育てのための制度の利用をあきらめた」が第一位でした。

=========
妊娠や出産、育児の情報はいまやそこかしこにあふれていますが、「産後」の重要性についてはまだまだあまり知られていません。

ママの産後ケアがうまくいき、出産でダメージを受けたこころとからだが元気になると、育児に向かう力が自然にわいてくる......という事実を、ママのみならず社会の共通認識として広げていく必要があるでしょう。

記者は、日本産後ケア協会が認定する産後ケアリストの資格を持っていますが、内田さんの体験談にもあるように、「産後」は女性だけのものではないと考えています。ママだけをことさら大切にする産後ケアは、ともすれば、ママを支えるパートナーであるパパを、育児の場から追い出してしまうことにもなりかねないからです。

ともに親になっていくために――。ママだけでなくパパのメンタル面にも、しっかりと目を向けていきたいものですね。

(飯田陽子)

【参考】
連合(日本労働組合総連合会)『パタニティ・ハラスメント(パタハラ)に関する調査』(PDF)
http://www.jtuc-rengo.or.jp/news/chousa/data/20140123.pdf

最近のニュース