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国の重要施策のひとつ「多世代交流」ってなんだ?

2016年9月30日

話し相手がいません。
食事はひとりでとっています。
外出はほとんどしません。
近所に頼れる人がいません。


――これ、誰のことだと思いますか?


「高齢者」というイメージは、すぐにわいてくるかもしれません。「独居老人」や「孤食」という言葉をよく耳にするように、高齢者の孤立化は、いま大きな社会問題としてクローズアップされています。

しかし、その高齢者とまったく同じ状況の人がいます。それが、産後や子育て中のママです。

一日10時間以上、母子ふたりきりで過ごすという産後3ヵ月までのママは、実に60%。しかもそのうち約3割は、16時間以上もふたりで過ごしているという調査結果があります。核家族が大半を占める現代の社会構造の中で、子育て世代、特に産後すぐの女性たちが孤立化している実態が浮かび上がってきます。

こうした背景から、いま注目されているのが「多世代交流」。

高齢者の課題と、子育て世代の課題がほぼ同じであることから、その両者を結びつけて助け合いや交流の輪を育み、地域の活性化へつなげていこう・・・という取り組みが、いま全国のさまざまな自治体で始まっています。


■多世代交流の盛り上げ役=「まち・人・くらしサポーター」を育てる!

東京都北区の北東部、志茂(しも)地区では、「志茂ジェネ協議会」というプロジェクトチームが立ち上がり、多世代交流をテーマにした研究がおこなわれています。

これは、志茂地区を舞台に、子育て世代を軸として多世代が共助する地域コミュニティをつくりあげ、助け合いのシステムを開発していこうというもの。公益社団法人 東京都健康長寿医療センター研究所が核となり、北区の後援を受けて、平成30年9月末までにわたる研究活動が行われています。

このプロジェクトの中核のひとつとなるのが「まち・人・くらしサポーター」の養成です。

「まち・人・くらしサポーター」とは、多世代交流の盛り上げ役となる地域のキーマンのこと。全7回にわたる座学&実地の研修で、子育て世代と高齢者それぞれの実情について学びを深め、交流の場の盛り上げ役として求められる能力を養成していきます。

そのキックオフ・イベントが平成28年9月5日に開催されたため、記者も取材に伺ってきました。

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キックオフ・イベントの公開講座でまず登壇されたのは、東京都健康長寿医療センター研究所(社会参加と地域保健研究チーム)研究部長の藤原佳典さん。志茂ジェネ協議会の主要メンバーで、全7回の研修のうち、高齢者支援についてのパートを担当する講師でもあります。

「高齢者支援、子育て支援、それぞれがそれぞれに取り組みを行うのではなく、多世代になったほうがお互いのメリットがあるんじゃないかという研究を、10年以上前からしてきました。今回は北区の協力をいただいて、国の大きなモデル事業のひとつとして、志茂ジェネを進めさせていただいています」(藤原さん)

藤原さんが所属する東京都健康長寿医療センターは、地域の健康づくりや支援を研究しているところ。日ごろは高齢者の健康がメインですが「高齢者が健康でいるためには、世代間の助け合いが欠かせない」という視点で、多世代交流の意義を解説していただきました。

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「まず、これを見てください。政策予算の割合を見ると、だいたい6割くらいが年金や医療費などの社会保障にあてられています。そしてその大半は、高齢世代が使っているのが現状です。子育てや教育など次世代に関わるものには全部合わせても5兆円弱ほど。しかし、高齢者が大半の社会保障には25兆、26兆という規模でお金が使われています」(藤原さん)

つまり、次世代にお金が回ってこないというのが日本の現状だ、ということ。もちろん高齢世代も喜んで税金を使っているわけではなく、病気やケガの治療や介護など欠くべからざるお金であることは社会が認識するとおりです。

「例えば、お年寄りが転んで大腿骨を骨折した場合、治療からケアまででお一人あたり170万円くらいの税金がかかると試算されています。ところが、もし地域でたったお二人でも"転ばなかった"としたら、そのお金で保育士さんを一人雇えるだけのお給料を捻出できるのです。

つまり、高齢者が元気でいることが、地域にとって最も波及効果があるというわけです。お年寄りが元気でいることが、次の世代のゆとりにつながる・・・という視点から、私たち健康長寿医療センターの研究活動が続いているのです」(藤原さん)


■元気でいるために、次世代へ関わる。地域で「役目」を持つ――ジェネラティビティ

では、高齢者が元気でいるために大切なこととはなんでしょうか。

藤原さんは「役に立つこと」「役目を持つこと」であると指摘します。

現状では支えられる立場にあるシニアが、次世代や同世代を支える側にも回ることで、①高齢者にも ②子育て世代にも ③地域にもいい という"三方よし"の状態ができる、と藤原さん。

「次の世代を支援し導いていく、何かを残す、役に立つ...。次世代のためになんらかの価値を生み出そうとすることを、専門用語で"ジェネラティビティ"といいます」(藤原さん)

「志茂ジェネ」というプロジェクト名の由来にもなっている「Generativity(ジェネラティビティ)」。

これは、ドイツの精神分析学者、エリクソンによるものだそう。人間の精神的な発達を8つの段階に分けたとき、その7段階目にあたる成年期を、エリクソンは「ジェネラティビティ」と呼びました。次の世代のためにいろいろなものをうみ出す(=generateする)時期にあたる、ということを示しています。

自分のことだけに必死だったそれまでの人生から、あるとき、次世代のために何ができるかという部分へ目が向きはじめる――。それは人としてごく自然な「発達」であり、その欲求に従うことが健康的に歳を取るポイントである、というお話しでした。

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キックオフ・イベントの参加者は中高年の姿が目立ちました。人生の成熟期を迎えると、次世代のためになることをしたいと思うようになる...。ジェネラティビティの話には、「うんうん」「そうそう」と深い共感をもって頷く人ばかりでした。


■地域のおじちゃん・おばちゃんが"斜めの関係"をつくってくれる

次に、子育て世代側からの視点として、いま日本が置かれている現状についての講演が行われました。

登壇されたのは、NPO法人 孫育て・ニッポンの理事長、棒田明子(ぼうだあきこ)さん。子育て、孫育てのセミナーを全国で開催するかたわら、テレビやラジオでも活躍している、多世代交流のリーダーのおひとりです。

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現代の産後家庭の特徴として「閉じられていること」を挙げる棒田さん。

「現代のお母さんたちって、赤ちゃんを泣きはじめたときに何をすると思いますか? はい、ご想像のとおり、まずは抱っこをします。ですが、その次にとる行動は"窓を閉める"なんです」

えーっ!! 

参加者の皆さんから驚きの声があがります。

「若い夫婦の核家族で子育てをしていると、"子どもは泣くものだ"という当たり前のことにも過敏になってしまいがちです。長く泣かせたら虐待の通報をされるんじゃないか、と、ナーバスになってしまう人も少なくないんですね」(棒田さん)

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「昨今では、夫婦のパートナーシップを大切にしたいという理由や、晩産化・親世代の高齢化によって、里帰りをせずに子育てをする夫婦が4割以上います。こうなると、いちばん身近な親世代から"子どもって、そういうもんだよ"という人生の先輩のアドバイスを受ける機会が減っていき、密室化してしまうという側面もあるんです」(棒田さん)

また、一人っ子が増えていることから、「斜めの関係が消えかけている」とも棒田さんは指摘します。

「一人っ子同士が結婚して子どもを産むと、その子にはいとこがいませんよね。そして、叔父や叔母もいません。つまり、子どもにとっては、頼りにはなるけどちょっぴり他人、という、ほどよい距離感の"斜めの関係"の人がいないということになります。

これからの子どもたちは、叔父叔母のように、身近で大人の世界を教えてくれる存在がどんどん減っていきます。だからこそ、それを肩代わりしてあげられるのが地域なのではないかと思うんです」(棒田さん)


■他人の孫、多くの孫=たまご を育てよう!

棒田さんは産後の女性の孤立感を支援する取り組みとして、産後ママのサポートを3週間から3カ月に延ばす「3・3産後サポートプロジェクト」のリーダーをつとめています。

棒田さんが子育て中の女性によくしているアドバイスは4つ。

●規則正しい生活を送りましょう
●なるべく歩きましょう
●人と会って話しましょう
●ご近所さんにあいさつして仲良くしましょう

ところが、棒田さんのお母さまが認知症になったとき、担当の医師からアドバイスされたことが、この4つとまったく同じで驚いたのだそう。

「高齢者と子育て世代の課題が共通していることを、心底実感しました。同じ悩みを抱える人同士がつながりあって、多くの人が関わり、他人の子どもを気にかける"たまご(多孫、他孫)"を育める地域になるように、私たちも志茂ジェネを通じて支援していきたいと思います」(棒田さん)

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「多世代交流は」、内閣府が推進する『まち・ひと・しごと創生総合戦略』にも盛り込まれ、人口が急減する超高齢化社会の課題を解決する具体策として、注目されています。

「多世代交流」が持続可能なしくみになる――。

それは、地域の課題を一気に解決することができる、夢の政策かもしれません。

これからも小学館ファミリーネットでは、多世代交流の現場を追いかけていきたいと考えています。

(飯田陽子)

【取材協力】
ジェネラティビティで紡ぐ重層的な地域多世代共助システムの開発
https://www.facebook.com/ristexgenerativity/

東京都健康長寿医療センター研究所
http://www.tmghig.jp/J_TMIG/J_index.html

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